『ハーモニー』の原作は、依頼を受けて初めて知りました。文体のスタイルがあっての小説なんだなと感じまして、映像化する事で物語のシンプルさだけが浮き上がって来はしないかと危惧はありました。アニメを作る上で、SF小説の使命である黙示的要素、さらに皮肉と毒が込められている原作とどう折り合うのか、魅力あるエモーションが生まれてくれれば良いかなと、願っています。
『ハーモニー』は、出たばかりの時に初めて読みました。ハードSFですし、現代から約60年後の話ではありますが、読んだ印象は(むしろ)凄く現実的で、今こそ皆が考えるべきテーマがたくさん詰まっている作品だと思います。読んだ当時はまさか自分が今になってSTUDIO4℃でなかむらたかしという素晴らしいアニメ作家と一緒に映像化することになると思ってもいませんでした。(笑)
弾丸と言葉のリアリズムで描かれた『虐殺器官』、現代社会の延長とも言える近未来を舞台に繰り広げられる儚い命の物語『ハーモニー』、19世紀を舞台とし、様々なギミックが楽しめる冒険活劇『屍者の帝国』。3つの全く異なった世界観を持つ作品と同時に向き合うという大役を授かることになりました。より多くの方々の心に届くような、きっかけとしての絵を作れれば良いな、と日々筆を走らせています。
人は何故生まれてきて、どこへ向かうのか。小説家は物語を遺すことで、どこに至ろうとしたのか。何か求めてやまないその魂が、映像にも宿ってほしい。遺された物語が、人々の心を揺さぶってほしい。