「大災禍」と呼ばれる世界規模の混沌から復興した世界。かつて起きた「大災禍」の反動で、世界は極端な健康志向と社会の調和を重んじた、超高度医療社会へと移行していた。そんな優しさと慈愛に満ちたまがい物の世界に、立ち向かう術を日々考えている少女がいた。
少女の名前は御冷ミァハ。世界への抵抗を示すため、彼女は、自らのカリスマ性に惹かれた二人の少女とともに、ある日自殺を果たす。
13年後、霧慧トァンは優しすぎる日本社会を嫌い、戦場の平和維持活動の最前線にいた。霧慧トァンは、かつての自殺事件で生き残った少女。
平和に慣れ過ぎた世界に対して、ある犯行グループが数千人規模の命を奪う事件を起こす。犯行グループからの世界に向けて出された「宣言」によって、世界は再び恐怖へと叩き落される。霧慧トァンは、その宣言から、死んだはずの御冷ミァハの息遣いを感じ取る。トァンは、かつてともに死のうとしたミァハの存在を確かめるため立ち上がる。
原作:伊藤計劃(ハヤカワ文庫JA) 監督:なかむらたかし『AKIRA』(作画監督)『ファンタスティックチルドレン』 マイケル・アリアス『鉄コン筋クリート』 キャラクター原案:redjuice アニメーション制作:STUDIO4℃『鉄コン筋クリート』『ベルセルク』 企画・制作:フジテレビ 配給:東宝映像事業部 宣伝:パジー・エンタテインメント/スロウカーブ パブリシティ:ブラウニー 制作:Project Itoh
13年前の事件で共に自殺を図り逝った友人・御冷ミァハの存在に今なお縛られながらも、世界の戦場を渡り歩き平和維持活動を行う監察官。
生まれ育った日本を逃げるように去り、戦地で自らを傷つけるように日々を送っていた。しかし、突如起こった大量殺人事件の捜査を進めるうちに、死んだはずのミァハの影、そして世界の真実に近づいていく。
トァンの同級生で13年前の事件の首謀者でカリスマ的魅力の美しい少女。調和と慈愛を重んじた優しすぎる世界を拒絶し、
トァンらを誘って自殺を企てた。誰よりも賢く、孤独を味わう為にデッドメディアと呼ばれる紙の書物を好む。
トァンとミァハの良き理解者。13年前の自殺未遂を経験して以降、トァンとは対照的に社会に溶け込むべく平均的で規律のとれた生活を送る。
笑顔の奥では、やはりミァハの死を引きずっていた。
トァンの上官である首席監察官。数十年前、世界を混沌に陥れた「大災禍」を経験した最後の世代。
禁止されている嗜好品の取引をしていたトァンに謹慎処分を言い渡し日本に帰国させる。
砂漠の民のリーダー。トァンに嗜好品を渡す対価として、医療パッチを享受する。
トァンの父で科学者。恒久的な健康社会をめざす「生命至上主義」を支える高度医療システムWatch Meの生みの親。13年前、忽然と姿を消す。
優しさと倫理が支配するユートピアで、3人の少女は死を選択した。13年後、死ねなかった少女トァンが、人類の最終局面で目撃したものとは?
オールタイム・ベストSF第1位
『ハーモニー』の原作は、依頼を受けて初めて知りました。文体のスタイルがあっての小説なんだなと感じまして、映像化する事で物語のシンプルさだけが浮き上がって来はしないかと危惧はありました。アニメを作る上で、SF小説の使命である黙示的要素、さらに皮肉と毒が込められている原作とどう折り合うのか、魅力あるエモーションが生まれてくれれば良いかなと、願っています。
『ハーモニー』は、出たばかりの時に初めて読みました。ハードSFですし、現代から約60年後の話ではありますが、読んだ印象は(むしろ)凄く現実的で、今こそ皆が考えるべきテーマがたくさん詰まっている作品だと思います。読んだ当時はまさか自分が今になってSTUDIO4℃でなかむらたかしという素晴らしいアニメ作家と一緒に映像化することになると思ってもいませんでした。(笑)
弾丸と言葉のリアリズムで描かれた『虐殺器官』、現代社会の延長とも言える近未来を舞台に繰り広げられる儚い命の物語『ハーモニー』、19世紀を舞台とし、様々なギミックが楽しめる冒険活劇『屍者の帝国』。3つの全く異なった世界観を持つ作品と同時に向き合うという大役を授かることになりました。より多くの方々の心に届くような、きっかけとしての絵を作れれば良いな、と日々筆を走らせています。
人は何故生まれてきて、どこへ向かうのか。小説家は物語を遺すことで、どこに至ろうとしたのか。何か求めてやまないその魂が、映像にも宿ってほしい。遺された物語が、人々の心を揺さぶってほしい。